2007年03月15日

安丸良夫「『従軍慰安婦』問題と歴史家の仕事」

米国下院決議案、
そして安倍首相の発言をめぐって
慰安婦問題が話題となっている。

10年前からまったく変わらない、
深い思慮に欠く単純化された議論が
再生産されコピー&ペーストのように
増殖している状況に驚く。

10年前の論文を読んで、
安丸良夫氏の指摘の重要さを再認識した。
(安丸良夫「『従軍慰安婦』問題と歴史家の仕事」『世界』648、1998.5)

否定派の議論について、安丸氏は次のように述べている。


「『自由主義史観』派も実証主義の立場をとるが、彼らは当該問題の全体性のなかから、彼らの立場にとって都合がよさそうで論敵の弱点となりそうな『実証』領域をひとつだけ取り上げる。例えば『従軍慰安婦』問題であれば、軍による強制連行は事実だったかどうか。手練の実証史家からみて、そこに批判派の弱点がありそうだと狙いをつけることは、それほど難しいことではなかったはずである。そして、強制連行の事実はなかったらしいということになると、あとは公娼制一般に解消され、私が提示してみたようなこの問題の全体像への手がかりは失われるというか、むしろ隠蔽されるわけだ。」
「こうした『実証』は、発見的なものとは逆で、全体像を特定の『実証』的事実にすりかえ、じつはそのことによって全体像を隠蔽し抑圧しているのだ。」(146頁)



彼らには、国家の立場からする日本の弁護という題材にしか、
興味がないのだろうか。
歴史家は断罪のためにこの問題を扱っているわけではない。
近代日本の特徴を広い角度からとらえるための
題材の一つとして考えているのだ。

現在の価値観から過去を断罪しているとの批判があるが、
歴史家自身がもつ問題意識は重要であり、
必要不可欠なものである。


「歴史研究というものは、単純に事実を探求しているのではなく、ある問題意識をもってあれこれ考えていると、歴史家は珍しい史料、奇妙な事実、あまりうまく理解できないような事象などに突きあたり、そうした経験を通して歴史を考えなおしてゆくものだからである。小さな、奇妙な事実に出会うことである驚きをもち、その驚きをもって歴史的全体性を捉え直す。ランシェール流にいえば、切り拓き直すことができるのである。こうした奇妙な事実、現代人としての私たちの経験とは異質で、むしろおさまりが悪く違和感を覚えるような事実は、過去というものの固有性とそこに拠点をおいた現在の私たちの通念や通俗化した感性へのアンチテーゼであり、現在の私たちへの批判の可能性といってよいだろう。」(147頁)


このような歴史家の仕事のあり方からいっても
「証言」の持つ意味は重要となってくる。


「史料というものは、制度や事件にかかわって存在するばあいが圧倒的に多いから、例えば民衆意識とか『従軍慰安婦』の日常とかは、原則的には史料には表現されない次元に属している。換言すれば、史料には表現されない人びとの経験は、限りなく広くて深いわけだ。そこで、史料があるところで史料に即して一般的にいえそうなことを記述していくと、それはほぼ不可避的に当該時代のシステムに体現されている支配的通念をくり返すこととなり、歴史家の実践する『実証』は、対象とする時代の支配的通念と歴史家本人の通念や常識とを織り交ぜたようなものとしてまとめられることになるだろう。実証主義は『実証』を信条とするように見えて、じつは『実証』の名において実際はもっとも平板で通俗的なものの見方をその支えとしてしまうのである。したがって、実証というもののこのような性格に注目するなら、そこでは広範な人びとの経験の具体相はかえって否認される、抑圧されるということになるだろう。」

「だから人びとの経験のリアリティに即いた歴史の見方をつくりだしたいと思うなら、史料のあるところで実証するという実証主義とは、理論的にはむしろ正反対の立場をとらなければならないわけである。といっても、何らかの手掛りがなければ歴史家の手に負えないのではあるが、こうした立場に立つことではじめてその意味が見えてくる史料群も、断片的にではあれ必ず存在するのであって、元『従軍慰安婦』たちの『証言』は、その典型的な事例としていま私たちの前に提示されているのだといえよう。」(145頁)
posted by bonta at 14:41| ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | 歴史学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
戸田恵梨香見えてる歯茎部分が前より小さくなった。 戸田と香里奈でいいのに
Posted by ?????jpg at 2013年06月28日 00:00
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